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東京高等裁判所 昭和26年(う)4624号 判決 1952年6月26日

控訴人 被告人 小島八郎

弁護人 高野源進 外二名

検察官 軽部武関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添付した弁護人高野源進、同松本重夫及び同菅野勘助の各控訴趣意書のとおりである。

菅野弁護人の控訴趣意第一点について。

原審第八回公判調書によれば、右公判期日の公判廷に出席した検察官副検事伊東寿が、被告人の検察官に対する供述調書の任意性を立証するため、その作成者である自分自身の証人尋問を請求し、原審裁判官が、主任弁護人の意見を聴いた上、これを採用し、同公判廷において、右伊東寿検察官を証人として尋問したことは、論旨の指摘するとおりであるが、公判立会の検察官が右のような事実の立証のため、自分自身を証人に申請することそれ自体は何ら違法でなく、なお本件においては、右公判調書によつて明らかなように、右伊東検察官が証人として採用せられるや、直ちに検察官副検事野口敬三郎が右伊東検察官と交替して出席した公判廷において、右伊東検察官の証人尋問が行われたものであつて、右訴訟手続には、所論のような法令の違反はないから、論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 河本文夫 判事 鈴木重光)

弁護人菅野勘助の控訴趣意

第一点原審第八回公判調書を調べたところによると本公判は昭和二十六年七月二十四日原審裁判所において裁判官浅野勝三、裁判所書記官佐野豊列席且つ検察官伊東寿出席の上公開開廷されていることが記載されている。従つて検察官伊東寿は本件公判の原告として公訴権を維持する訴訟の当事者であることは謂うまでもない。然るに記録二八四丁を見ると、検察官は、被告人に対する検察官作成の供述調書の作成の任意性を立証する為めその作成者検察官副検事伊東寿の証人尋問を請求した。主任弁護人は、右証人を尋問することに同意し証拠調請求に異議がない旨述べ、裁判官は検察官の右請求を採用して伊東寿を証人として尋問する旨決定を宣した。とあつてそれに引続いて検察官が入り替り右伊東寿に対する尋問が行われている。けれども公判立会の検事は前記にも述べたように、訴訟の当事者であつて第三者ではない。証人は当事者以外の第三者でなければならないことは当然であるにも拘らず当事者が自ら自分を証人として尋問する資格がない、検察官一体の原則が認められるにしても、公判立会中の検察官はそれ自体当事者であるから、その者が自ら立会中自分を証人として尋問されたい旨の申請が許されないことは謂うまでもない。この点において右伊東寿を証人として尋問した公判手続は違法であるし、而も右伊東寿の証人としての右供述が原審判決の証拠となつて採用されているのであるから判決に影響すること明白であるから原審判決は破棄されねばならない。

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